【コラム】香川県議会の「ゲームやネット依存症対策条例案」は適切か?

香川県議会が議論を進めている子どものゲームやネット依存症対策を
>目的とした条例案に、対象を高校生以下の子ども。
>1日のゲームやネットの使用時間を平日は60分、休日は90分に制限する他、
>夜間の使用についても高校生は午後10時以降、中学生以下は午後9時以降は
>ゲームをさせないよう保護者に求める方針だ。罰則規定は設けない。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2001/10/news143.html
との報道がされ、ネットで議論になっている。

 オタク文化に理解のある山田太郎参議院議員(自民党)は、条例について、
>「誰の何の為なのか甚だ疑問!」「あまりにも問題が多い」とツイッターに書き、
>現地調査したうえで手立てを考えることを明らかにした。
>そのうえで、「まずは、今後予定されるパプコメに香川県民の皆様の声を
>県に寄せて下さい」と訴えている。
きっかけは、世界保健機関(WHO)がゲームなどに依存して生活に
>問題が生じる状態を「ゲーム障害」として5月に新疾病に認定したことだという。
>中国や韓国でも、独自の利用時間制限を導入していることも参考にして、
>党派を超えた議員で条例案を提案するための検討委を作ったそうだ。
https://www.j-cast.com/2020/01/10376934.html


韓国は、青少年が夜12時から午前6時までオンラインゲームを
>使用することを禁止した「シャットダウン制」を2013年に導入。
https://www.sankei.com/economy/news/151029/ecn1510290027-n1.html


韓国ではこのシャットダウン制を導入した結果3割のゲーム会社が退場を
余儀なくされ、この影響は世界中にオンラインゲームを供給していた
世界中に影響し、日本でも、数多くの韓国産オンラインゲームが
開発終了の影響でサービスを終了した。
これが2015年時点の産経新聞の記事である。
日本では絶大な人気を誇っていた「スカッとゴルフパンヤ」ですら
終了していまうほどの影響だったので、PCオンラインゲームをやったことが
ある人なら知っているかも知れない。

Zero Fill Love - Pangya Season4
特に「スカッとゴルフパンヤ」のシーズン4PVである「Zero Fill Love」
は日本語と英語と韓国語のミックスの歌詞で構成されており、
日本市場へのアピールに重点を置かれていた。
プレイ時間も1ゲーム10~20分ぐらいであり、やりこみ要素は
あるものの、チャットが楽しめるまったりゲームとしての側面もあったため
アバターを自由に動かしたり座らせてチャットを楽しむ事ができたので
日本市場ではとても人気があり、いつでも、好きな時に遊べるところが
魅力だった。

では何故いま香川県議会でこんなゲーム規制をしようとしているのか。
これは推測でしかないが、香川県の県議会議員は未だに
「ゲームは子供に悪影響を及ぼすから規制すべき」
という古い考えに基づいているためと思われる。

かつて「ゲーム脳」という言葉が独り歩きをしていた時代もあったが
あれは、森昭雄さんとかいう日本大学の教授が2002年に書いた著書
『ゲーム脳の恐怖』上で勝手に定義された仮説、およびその仮説を示す造語だ。

ゲーム脳の提唱者である森さんは、運動生理学が専門である体育学科の教授で、
脳神経学に関してはまったくの門外漢だ。
しかし、「(筋肉の論文で取った)医学博士」の肩書き
(つまり医師でもなく医学部医学科出身でさえない!)を武器に、
各マスメディアの協力を得て、さも脳神経学の専門家であるかのように装っている。
いわゆるニセ科学として後に否定され、2020年現在では誰も見向きも
しなくなった。

こうした古い考えに基づいている、議員が新しいゲームを規制したい理由付け
としてWHOの新疾病に「ゲーム障害」を認定したところから今回の件は
始まっているようだ。

では、ゲーム依存症対策は本当に条例レベルでの規制が必要なのか?
答えは明確にノーである。
何故ならば、それは各家庭での保護者による教育によって躾けられるべき
範囲であって条例で子供の「好奇心」や「探究心」「熱中できる媒体」
を制限するものではないからだ。
子供時代に漫画やアニメ、ゲームを規制されて育った大人が、
自分の経済力で漫画やアニメ、ゲームにドハマリするのはよくある話で
むしろ漫画家になりましたとか、ゲーム開発者になりましたなどという
話まであるほどだ。

また子供同士のコミュニケーションにゲームは今や欠かせない。
何故なら公園は遊ぶことを禁止されており、必然的に社会が屋外で
遊ぶことを規制しているからだ。
現在の公園は球技類一切禁止、遊具も危ないから撤去、ベンチに至っては
長時間座ることすら許されず、飲食まで制限されている。
一体子供たちにどこで遊べと言うのだというほど、現在の子どもたちの
遊ぶ環境が悪い。
そうした結果、自宅で大人しくゲームをするしか無い環境に誘導されて
いるのは当然であり、その社会環境を踏まえて尚、香川県議会は
子どもたちから「遊び」を制限しようとしている。

では、この条例案が施行されたとして、適切に運用されるのか?
答えはノーだ。
罰則も無いので子どもたちは隠れてゲームをするだけである。
香川県議会は、子どもたちに制限をする前に、うどんで糖尿病患者が
多いから、まずうどんを規制するべきだろう。
もちろん、香川県民のことだから「県民食を規制するとはけしからん」
と条例を無視して隠れて食べるのが目に見える。
つまりそういうことだ。
人間の本能的な欲求である食や、好奇心・探究心を止めることは容易ではない。

むしろゲームは1日1時間とか昭和の高橋名人のCMレベルだ。
今の大人は、自分が子どもたちに何かを与えるのではなく、
子供だから規制していいんだという思考で物事を考えるフシがある。
それが社会全体が納得できる有害図書やナイフなどの危険物であれば
「そうだね、それは子供から遠ざけたいね」
で社会的合意形成が出来るが、ゲームは度を越してやりこまなければ
非日常的体験もできるし、ゲームによっては頭の回転をよくする媒体にもなる。
音楽ゲームであれば、リズム感を養うことも反射神経を養うこともある。
各家庭で適切にゲーム時間をほどほどに管理されていればいい話であって
県議会が規制するものではない。
時代錯誤も甚だしい。
それとも何か、香川県議会はゲームに親でも殺されたとでも言うのだろうか。

ネット・ゲーム依存症は、どちらかというと、個々人の依存症という病気であり
別にゲームに限った話ではない。
なんにでも依存するし、場合によっては人に対しても依存する。
香川県民なんか、うどんに依存してるじゃないか。それで糖尿病が増えている
のであれば、まずうどんを規制すべきが先だろう。
と反論をされるのがオチである。

今回の条例案は有識者のコメントがまったく見えてこないので
おそらく有識者がいないと思うが、依存症対策の根本を履き違えて
条例で規制しようなどとは見当違いもいいところ。
少なくとも、依存症研究の医学博士数人のコメントや、社会学者などの
有識者のコメントを評価するべきだったと思われる。


ちなみに筆者は、1980年代からゲームセンターに入り浸り、
特にシューティングゲームと、戦闘機ドッグファイトゲームや
タイトーのトップランディング(飛行機で着陸するだけのゲーム)
エアインフェルノ(防災ヘリを操縦士、ビル火災を消火したり遭難者を捜索するゲーム)
など、英語をしゃべるゲームで英単語に興味を持ち、そこから英会話スクール
に通った経験がある。(結局、あんまりしゃべれはしないのだが。)
しかしそのお陰で、動体視力が鍛えられ、成田空港ロビーでかんたんな
外国人インフォメーションが出来るようになり、今ではすっかり
バンダイナムコさんのエースコンバット大好きゲーマーになってしまっている。
(それでも、1日のプレイ時間は1時間は超えない)

筆者は、ヤフー知恵袋の回答者でカテゴリマスターの立場でもあるが、
スマートフォンカテゴリを見ている分では、やはりスマホによるネット依存
の質問が単発的には上がってくるものの、そこまで件数は多くない。
全体からすれば、もっと自覚のないスマホ・ネット依存は多いかもしれないが
彼らが困るのは、勉強に集中できないときや受験を前にしてスマホを
手放せない状況のようだ。
本来ならば、本を読み、テレビを見て、食事をして、通学してという
生活時間の中で多くの時間をスマホに費やしており、それが習慣化している
に過ぎず、依存とまでは言えない程度がほとんどだ。

今後の香川県議会でのパブリックコメント募集が気になるところである。